2023/01/18 12:00
錠剤嚥下障害のトレーニング
錠剤が飲めないというご相談、子供さんだけのことではありません。
大人の方でも悩んでいらっしゃる方は多いです。
実際に、「錠剤」「飲めない」「練習」といった検索ワードで、当薬局のページに辿り着いた方も多くいらっしゃいます。
私も、これまで「噛んじゃダメ」しか、言っていない気がしたので、何かできれば、と勉強中です。
いくつかトレーニングも行われていますので、ご紹介したいと思います。
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【注意事項】病気のために嚥下障害がある方は、必ず主治医等に相談してください。
絶対に、自己判断で試さないでください。
この方法は、嚥下機能は正常だが、「苦手」と感じている方向けの方法です。
大人の方で、普段、固形物の食事を食べるときには、嚥下には問題がない方が読むことを想定して紹介しています。
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① pop-bottle 法
練習に使うもの:
・空のカプセル
・スクイズボトル(スポーツドリンクなどに使われる、ボトルを握り中の飲料を押し出す容器)
(スクイズボトルがなければ、ストロータイプのボトル)
イラスト引用元)https://free-icons.net/
<ポイント>
・好きな飲料(自分で選ぶ)
・小さいカプセルから始める もしくは 小さいお菓子(自分で選ぶ)
(参考論文では、長径が15mmの3号カプセルを使用)
・練習に対して前向きにリラックスして取り組めるような声かけ
・一緒にいる人が、してみせる
・優しい声かけ
・できたら褒める
※参考論文では、子供を対象に、このトレーニングをしているので、子供さんの好きな飲料ですること、できたら褒めること、をポイントして挙げてあります。
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<方法>
1. カプセルを舌の真ん中あたりにのせる
※頭は真っ直ぐ前を向いたまま。上を向いたりはしない。
2. スクイズボトルに唇をピッタリつける。
ボトルを握って(飲料を出して)、ごっくん(3回)
【重要】頭が真っ直ぐ前を向いたままの姿勢が、むせずに嚥下しやすい姿勢です。
※うまくいっても、すぐに大きいカプセルにしない。小さいカプセルで、何度か練習する。
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<訳者コメント>
誤嚥を防ぐ体勢として、下顎を軽く前に突き出した体勢が推奨されています。
気道が閉じて、食道に送り込みやすいためです。
紹介した論文では、その体勢をとって、かつ、スクイーズ式のボトルで水を送り込むことで飲み込みやすくしている点が工夫されています。
参考)
Tse Y et al. The KidzMed project: teaching children to swallow tablet medication. Arch Dis Child. 105 (11), 1105-1107 (2020). doi: 10.1136/archdischild-2019-317512
2023/01/03 18:00
最近のニュースから/薬がない?
薬局の窓口で、「今までのお薬が手に入らないので、別のメーカーの薬ですが・・・」「同じ系統の薬です・・・」
などと、お伝えしている方もいらっしゃいます。
皆様の中にも、そのような説明を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ニュースなどでお聞きになられた方もいらっしゃるかもしれません。
2020年以降、医薬品の供給が、かなり難しい状況です。
これについて、ご説明と対策(私なりの)をお伝えします。
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1. 本当に薬が足りないのか?
2. 実は、以前からの問題も
3. 極めて重大な不祥事
4. 急増する需要に追いつけない
5. 薬局はどうしているのか
6. 患者様へのお願い
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1. 本当に薬が足りないのか?
製薬企業の団体である「日本製薬団体連合会」が調査したデータを見てみます。
製薬企業から医薬品卸への出荷状況に関するデータですが、通常出荷されている医薬品の割合は、前回の 79.6% よりも、今回は 71.7% と減少しており、前回よりも”薬不足”の状況は悪化しています。
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調査概要)
①2021年9月に実施した調査では、218社、15,444品目の医薬品を調査
②2022年11月に実施した調査では、330社、19,336銘柄の医薬品を調査
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2. 実は、以前からの問題も
実は、”薬不足”は、以前からの問題でもありました。
医薬品の価格は、”薬価”として公的に決められており、さらに、定期的に見直しが行われています(以前は2年に1回→毎年改正)。
そのため、以前から使われていて長い年月が経過した医薬品が価格が安くなる一方、
製造コストは、近年の物価上昇や円安の影響、環境対策などの影響で、ますますコストが上昇しています。
そのため、価格が安い薬は、製造コストに見合わなくなり採算が取れないものも出てきます。
したがって、採算性が悪いものは、海外で製造した原料を輸入する、などの措置が行われており、海外の状況に左右される、ということが発生します。
安心していただきたいのは、日本でも外国の製造業者に対しても、事前に定めた方法を守って製造しているか・品質は十分か、政府が監視しています。
もし、違反が発見されたり、製品に不純物が発見されたら、その重要度に応じて、製品を回収する・営業を停止する、などの措置が行われます。
しかし、その場合は、一旦薬の製造が停止する・減少することも起こります。
以前から、日本の製薬に関する問題の一つとして、
「昔から使っている、安くて良い薬が、安いために採算がとれず、製造が困難」
ということがありました。
ここで、特に問題となったのが、セファゾリン注射剤の不足問題です。(2019年1月から)
この時は、市場シェアが高かった製薬企業が、原薬を輸入していたA国、B国について、
A国は異物混入、B国が製造を辞めたことが元となり、医薬品を安定供給することが極めて困難となりました。
これ以降、もちろん、政府は医薬品の安定供給のために、対策を取ってきたのですが、
製薬業界を揺るがす、大きな事件が起こりました。
3. 極めて重大な不祥事
2021年12月
小林化工という製薬企業が製造した抗真菌薬を服用後に、「ふらつき・めまい・意識障害」の副作用報告が複数報告されたため、
製造記録を確認したところ、睡眠導入剤の成分が混入していたことが発覚しました。
医薬品の製造工程は、事前に国に申請して承認された工程の通りに行われますが、
この件では、承認通りの製造工程を行わなかったこと、品質管理が適切に行われていなかったことが原因でした。
表示以外の成分が混入していたために健康被害が発生し、本当に痛ましいことに死亡された方もいらっしゃいました。
医薬品の信頼を根本から揺るがしかねない、極めて重大な不祥事です。
被害を受けた方には、心よりご冥福をお祈りするとともに、いち薬剤師として、薬業界に携わるものとしては、心から申し訳ない思いでいっぱいです。
(なお、その後、この製薬企業は、製造販売業を廃止しました)
この一件を受けて、医薬品製造業界を上げて、製造過程が正しく行われているか、品質管理が正しく行われているか、見直しが行われました。
その過程で、他にも違反があったことが発見され、複数の製薬企業が行政処分を受けました。
最近では、令和4年9月にもある企業が行政処分を受けるなど、散発的に企業の処分が継続している状況です。
ある製薬企業で医薬品の製造が停止したため、別の企業では、その同じ成分の薬の需要が急激に増えて、製造が追いつかず、医薬品が入手しづらい状況が発生しました。
また、新型コロナウイルス感染症の世界的な影響のために、薬の製造や流通が滞ったため、ある医薬品が入手困難になる状況も起こりました。
さらに、令和3年12月には、医薬品の大規模な物流センターが火事になった影響で、物流に支障が生じました。
最近では、新型コロナウイルス感染症の患者数の急増のため、急性上気道炎の治療薬の需要が急激に増えた影響で、製造が追いついていない、という状況が、今まさに発生しています。
このように、製薬企業の重大な不祥事の後も、さまざまな要因が重なり、医薬品の供給が困難な状況が発生しており、現在もその状況が続いています。
ジェネリック医薬品が不足した結果、先発医薬品の需要も高まり、先発医薬品でさえ、手に入りにくい状況です。
薬局が医薬品卸から購入をする場合、いままでに取引のない医薬品は、新規先には売れません、ということも発生しています。
状況が改善するためには、後2年必要、などという意見もあります。
4. 急増する需要に追いつけない
薬が不足している原因の一つに、最近の事情も影響しています。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、
解熱鎮痛薬や急性上気道炎の治療薬の需要が急増しており、
生産が追いついていない、という問題も発生しています。
5. 薬局はどうしているのか?
薬局では、このような事態を受けて、患者様の治療継続のため、なんとか必要な薬が手に入れられるように努めています。
例えば、このような方法です。
◯いつも服用している薬が、すぐには手に入らないとき
→別のメーカー品で同じ成分の薬が手に入らないか?
◯同じ成分のジェネリック医薬品(後発医薬品)が手に入らないとき
→同じ成分の先発医薬品が手に入らないか?
◯どうしても同じ成分の医薬品が手に入らないとき
→主治医に問い合わせて、同じ効能効果を持つ、別の医薬品に変更可能かを相談する
◯いつも定期的に服用している医薬品
→早めに医薬品卸に発注して準備しておく
6. 患者様へのお願い
患者様におかれましては、いつもと違う薬に不安を感じられるお気持ちはわかります。
どうぞ、ご不安な気持ちも、安心して相談できる薬剤師に相談してください。
しっかりと説明を受けていただき、納得して、治療を継続していただけるよう、私たち薬剤師は応援します。
もちろん、たとえ同じ成分の薬でも、製薬会社が異なれば、添加物が異なることはあります。
万が一、医薬品を服用・使用して、「何かおかしいな?」「いつもと違うな?」と不調を感じたら、すぐに相談してください。
私たち医療関係者は、医薬品供給困難な中でも、患者様の治療を継続していただけるよう、最大限の工夫をします。
安心して治療を続けていただけますように。
そのためにも、大切なこと、
いつもの、かかりつけの薬局にかかりましょう。
どの薬局・薬剤師に任せるか、あなたが選んでいただけます。
言い訳のような話になってしまい、申し訳ございません。
私たちも、皆様に選んでいただけますよう努めて参ります。