2022/01/05 09:00
アンチ・ドーピング③ ドーピング検査の種類
前回は、アンチ・ドーピングのルールについて、お知らせしました。
ルールを守って公正にスポーツを楽しむことは、全てのアスリートに共通の権利であるといえます。
しかし、アスリートの競技レベルによって、アンチ・ドーピングについて知らなくてはならないルールや求められる行動も異なります。
まず、2つのドーピング検査について、ご説明します。
前回、ドーピング検査は、「競技会検査(ICT)」と「競技会外検査(OOCT)」に大別できることをお伝えしました。
競技会検査とは、名前の通り、競技会、つまり、オリンピックや国体など、試合の後に行われる検査です。
対象になるのは、ドーピング検査が実施される試合に出場する選手全員です。
試合後に、検査対象となったことの通告を受けた選手は、ドーピング検査を行います。
なお、参加する試合でドーピング検査が実施されるか否かは、大会規約に必ず記載されています。
例えば、国体の場合、「開催基準要項」の中に、アンチ・ドーピング活動の実施(ドーピング検査及びアンチ・ドーピング教育・情報提供・啓発活動)が記載されています。
競技会外検査とは、競技会以外の時、つまり、日頃のトレーニングをしている時などに、検査員が対象者のところに訪れ、実施される検査です。いつ実施されるか、事前予告はありません。
検査員は、JADA から認定され研修を受けた、ドーピング検査員(Doping Control Personnel, DCP)が検体採取手続きを行います。
競技会外検査の対象となるのは、「RTP/TP アスリート」です。
RTP/TP とは、RTP(Registered Testing Pool)登録検査対象者リスト、TP(Testing Pool)検査対象者リストのことで、JADA または国際競技連盟(IF)が国内または世界でトップレベルの選手を登録します。これに登録されたアスリートは、居場所情報を提出しなければなりません。
つまり、これに登録されたアスリートは、国内や世界でトップレベルであることの証明であり、日本代表として、常にアンチ・ドーピングに取り組まなければなりません。
このように、アスリートの競技レベルに応じて、アンチ・ドーピングに関して、知らなければならない情報などが異なります。
以下に、競技レベルと必要とされる行動の大まかなイメージを示します。
国際レベルの競技者
・・・アンチ・ドーピングについて最新の情報を知り、常にアンチ・ドーピングに配慮した行動が必要です
・・・病気の治療にも、常に注意が必要です(トップレベルのアスリートは、競技団体の指定医師に相談されていると思います)
国内レベルの競技者〔国体や全国大会に出場する競技者〕
・(JADAに登録されている RTP/TP アスリート)
・・・アンチ・ドーピングについて最新の情報を知り、常にアンチ・ドーピングに配慮した行動が必要です
・・・病気の治療にも、常に注意が必要です。治療を受ける時には、アンチ・ドーピングに注意が必要であることを必ず伝えましょう。
・(JADA が指定する競技ごとの国内最高レベルの大会に出場するアスリート)
・・・アンチ・ドーピングについて正しい情報を知り、大会に出場するときには特に、アンチ・ドーピングに配慮した行動が必要です。
・・・大会に出場するときには特に、病気の治療にも注意が必要です。治療を受ける時には、アンチ・ドーピングに注意が必要であることを必ず伝えましょう。どの大会に出場するのか、いつ開催されるかもきちんと伝えましょう。
レクリエーション競技者〔国体など全国レベルの大会には出場しない位の競技レベル〕
・・・アンチ・ドーピングについて、基本的なことは理解しておきましょう。(公正なスポーツについて)
・・・健康づくりとスポーツを両立するために、基本的な薬の正しい使い方を理解しておきましょう。
(いくつかの規程がありますので、詳細はきちんと個別に確認願います)
サポートスタッフ
・・・アンチ・ドーピングについて、基本的なことを理解した上で、最新の情報に常に注意を払いましょう
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まとめ
◯ドーピング検査には、「競技会検査」と「競技会外検査」があります
◯アスリートの競技レベルに応じて、知らなければならないルールや求められる行動が異なります
◯スポーツに関わる人全て(サポートスタッフ含め)には、アンチ・ドーピングについて基本的な知識を持っていていただきたいです
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③ドーピング検査の種類 (今回)
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これまでの関連記事
2022/01/04 09:00
アンチ・ドーピング② アンチ・ドーピングのルール
前回、「ドーピングとは?」についてお伝えしました。
まず、知っておいて欲しいことは、
ドーピングとは、ルールに基づいて公平にスポーツをするという、「クリーンで公正なスポーツを守るための活動」である、ということです。
アンチ・ドーピングに関するルールは、「世界アンチ・ドーピング規程(CODE)」に定められています。
これは、ドーピングをなくし、クリーンなスポーツに参加するという、全てのアスリートの権利を守るために定められた、全世界・全スポーツの共通のルールです。
これができる以前は、国やスポーツごとにバラバラだったのですが、2004年に統一されました。
これは、アスリートだけでなく、指導者を含むサポートスタッフ、競技連盟、アンチ・ドーピング機関、政府が、共にアンチ・ドーピング活動を行っています。
日本におけるアンチ・ドーピング機関が、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)です。
アンチ・ドーピングに気を付けるために、守らなければならないルールが、「世界アンチ・ドーピング規程(CODE)」です。
さらに、世界アンチ・ドーピング規程に付随する国際基準が定められています。
◯禁止表国際基準(The Prohibited List)
この基準では、スポーツにおいて、禁止される物質と方法が記載された一覧表が示されています。
そのため、アンチ・ドーピングに注意するときには、この表に記載されていないことを確認しています。
大切なことは、禁止表国際基準は、少なくとも1年に1回改訂されることになっています(1月1日)。
そのため、以前は大丈夫だったとしても、最新の情報を確認しなければなりません。
この一覧表の中では、禁止される物質と方法が、「常に(競技会(時)及び競技会外)」と「競技会(時)においてのみ」の2区分に分けて記載されています。つまり、ドーピング検査の実施形態により、禁止となる物質と方法の範囲が異なります。
◯検査及びドーピング調査に関する国際基準(ISTI)
ドーピング検査の具体的な手順や、ドーピング検査におけるアスリートとアンチ・ドーピング機関の権利・義務に関するルールです。また、アンチ・ドーピングに関する情報の収取や評価、ドーピング調査に関するものも記載されています。<不定期改訂>
◯治療使用特例に関する国際基準(ISTUE)
禁止表に掲載された禁止物質や方法を、治療目的のために使用せざるを得ない場合、治療使用特例(TUE)を申請することができます。この国際基準では、その申請に関する手順や、TUEの付与または承認の検討手続き、不服申し立てについて記載されています。<不定期改訂>
つまり、禁止物質・方法は絶対に使用できないのではなく、アスリートが持つ疾患の治療のために使用しなければならないと申請して認められた場合は、使用することができます。その申請を、治療使用特例(TUE)と言い、この基準で定められています。
◯結果管理に関する国際基準
アンチ・ドーピング規則違反の事案が発生した時の結果管理手続きに関する国際基準です。
※2021年より新規制定
◯教育に関する国際基準
アンチ・ドーピングの教育、情報提供などに関する国際基準です。
※2021年より新規制定
◯署名当事者の規程遵守に関する国際基準(ISCCS)
世界アンチ・ドーピング規程(Code)の署名当事者であるアンチ・ドーピング機関や、国際競技連盟に対する規程遵守についての国際基準です。
この国際基準には、署名当事者の権利と責務、WADAが署名当事者に対し規程遵守状況の監査を行うことや、その評価、評価に基づく罰則について記載されています。この国際基準によって、組織的なドーピングや、アンチ・ドーピング機関や国際競技連盟が機能不全を起こしているケースにおいても、WADAが直接介入をできるようになりました。署名当事者の責任がより明確化され、実効性の高いアンチ・ドーピング活動を推進することを目的としています。
◯プライバシー及び個人情報の保護に関する国際基準(ISPPPI)
アンチ・ドーピング活動に関連して処理される個人情報のデータ保護や、プライバシー保護に関する国際基準です。プライバシー及び個人情報の保護に関する国際基準の内容は、不定期に改訂されます。
◯分析機関に関する国際基準(ISL)
WADAが認定する分析機関、その他WADAが承認する分析機関において、検体の分析および管理の手続きに関する国際基準です。
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ドーピングが「クリーンで公正なスポーツを守るための活動」であることをお伝えしましたが、
ドーピング検査が行われているということは、公正さを守るための取り組みが行われている、ということです。
世界的に見ると、日本でのドーピング検査件数は少ないと言われていたため、スポーツのフェアネスを確保するためにも、ドーピング検査数の増加が課題とされていました。
世界のアンチ・ドーピング活動に合わせて、日本で最大の総合競技大会である国体でもドーピング検査が実施されるようになりました(2003年の静岡国体から)。
こちらに、日本国内で行われたドーピング検査の件数をお示しします。
(データ引用元:公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA))
ドーピング検査は、「競技会検査(ICT)」と「競技会外検査(OOCT)」に分かれています(後述)。
青色の競技会検査件数を見ると、日本におけるドーピング検査件数が年々増加していることがわかります。
(ただし、2020年の競技会検査数が急激に減ったのは、新型コロナウイルス感染症の影響で競技会が開催されていないためだと思われます)
一方、橙色で示した競技会外検査は、波はありますが、年々、検査件数が増加していることがわかります。(2020年も検査が実施されています)
このように、ドーピング検査数も増加している中、アスリートは、アンチ・ドーピングの正しい知識を持つことが必要であるといえます。
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まとめ
◯アンチ・ドーピングの基本的なルールは、全世界・全スポーツ共通のルールです
◯ドーピング禁止物質・方法のルールは、毎年改訂されます
◯最新情報を確認して、アンチ・ドーピングに気をつけましょう
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②アンチ・ドーピングのルール (今回)
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これまでの関連記事
2022/01/03 09:00
アンチ・ドーピング① ドーピングとは
今回から、「ドーピング」について、ご説明します
◯ドーピングとは?
ドーピングとは、競技力を高めるために、禁止されている物質や方法を使ったり、それを隠そうとする行為のことを言います。
「ドーピング (doping)」という言葉の語源は、アフリカの部族が祭礼や戦場に行く前に飲む強いお酒「dop」に由来すると言われています(諸説あり)。
ドーピングを防ぐためのルールでは、
①競技力に影響しうる禁止物質や方法を使うことは、禁止されています。
②使用するきっかけが、意図的か・非意図的かは関係なく、禁止されています。
③禁止物質・方法を隠す行為も、禁止されています。
競技力に影響するためドーピングになるとして禁止されている物質は、決して特別なものではありません。
病気の治療に使われる医薬品や市販薬だけでなく、健康食品やサプリメントなどにも含まれている可能性があります。
禁止物質を含む医薬品を、それとは知らずに、病気を治療する目的で使用してしまった場合でも、禁止物質を使うとドーピング違反になります。
意図せず禁止物質を使ってしまうことを「うっかりドーピング」といいます。
病気を治療し、万全のコンディションで日頃の成果を出すためにも、うっかりドーピングを防止することが大切です。
◯なぜ、ドーピングをしてはいけないのでしょうか
ドーピング、という行為が、
①フェアプレーの精神に反し、
②反社会的行為であり、ルール違反だから、 というのはもちろんのことですが、
③アスリートの健康を守るため、 にドーピング違反をしないことが大切である、とも言えます。
スポーツでは、ルールを守り、競技相手と尊重しあい、日頃の努力の成果を発揮している姿に、私たちは感動を覚えます。
しかし、ドーピングは、それまでの自分自身の努力・チームメイトとの信頼・サポートしているスタッフや応援している人々の思い、全てを裏切る行為です。
また、これまでに、ドーピングによって体に過剰な負担をかけてしまった結果、命を落としてしまった例もあります。
どうか、純粋にスポーツと向き合う自分自身を大切にしてください。
うっかりドーピングにならないように、十分に注意しましょう。
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まとめ
◯「クリーンで公正なスポーツを守るため」にアンチ・ドーピングの正しい知識を持ちましょう
◯病気の治療が、ドーピング禁止物質・方法に該当する場合もあります
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①ドーピングとは? (今回)
②アンチ・ドーピングのルール (次回)
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これまでの関連記事
2022/01/01 12:00
新年のご挨拶
新年のお喜びを申し上げます。
皆様におかれましては、健やかに新年をお過ごしのことと存じます。
旧年中は、感染症の恐怖がようやくおちついたかと思えた頃に、オミクロン株も登場し、先の見えない恐怖にご心配な方も多いと思います。
こんなときだからこそ、こはく堂薬局として、地域の皆様に必要とされることをお返しして、少しでも皆様の健康づくりの応援をさせていただきたいと存じます。
今年が、皆様にとって素晴らしい年になりますようお祈り申し上げます。
本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
2022年1月1日
こはく堂薬局
イラストは、イラストAC から、ゴートゥーさんのイラストをお借りしました。